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平均馬力、平均トルクという考え方
知らないと損をする速い車の作り方 アッと驚くチューニング理論 |
平均馬力、平均トルクという考え方
先日掲載した 「 チューニングのベクトルをどこへ向けるか 」 のお話しの続きで、 今回は実例をあげて解説して行きましょう。
前回のお話しの中にあった 「 速くするには、どうするか? 」 について、より深いレベルで考えてみます。
以下は A と B の車両の比較で、同じ EJ20 を改造した 2.2 リッターエンジン同士です。
しかし、求める方向性は全く逆。 この 2台のチューニングの方向性の違いを比較してみましょう。
■ 車両 : A ( 380馬力 )
最大トルク : 約 61Kg/m 最大馬力 : 約 380PS
IMPREZA-NET ダブルチャージャーキット 搭載、 2.2リッター
HKS スーパーターボマフラー、剥き出しエアクリ、F-con V-PRO & フラッシュエディター特別仕様版 ( スーパーチャージャー用 )
これは、当 IMPREZA-NET の VAB の実計測データ。
ちなみにメタキャタ無しの純正触媒、タービンも純正です (^^ゞ
チューニングの方向性は、低 〜 中速域の加速強化。
それと乗りやすさ、扱いやすさの追求。
耐久性を重視で、安全マージン多めの出力設定ですが、「 負けない車 」 にすること。
結果として 2000 rpm を少し超えたあたりからパワフルに過給がかかって低速域からでも強烈な加速が得られます。
4000 rpm 以上では馬力変化の少ないフラットに近い特性で、高回転域でも操作性の良さが武器となります。
400 馬力オーバーを狙うと、必然的にメタキャタ、大容量インジェクターや大容量ポンプ、強化クラッチ等の駆動系の強化が 必要になってきますが、この仕様ならばギリギリ交換せずに済みます。( クラッチ等、いたわって使うのが前提ですが )
チューニング費用とその効果に対し、いろいろな意味でバランスの取れた状態です。
各回転数ごとのトルク数値
RPM | 2000 | 2500 | 3000 | 3500 | 4000 | 4500 | 5000 | 5500 | 6000 | 6500 | 7000 | 7500 |
Kg/m | 32 | 32 | 43 | 56 | 61 | 58 | 53 | 49 | 44 | 38 | 34 | 32 |
3000 prm 〜 6000 rpm の平均トルク : 52.00 Kg/m
( ミニサーキットなどでの使用回転域 )
3500 prm 〜 6500 rpm の平均トルク : 51.29 Kg/m
( 中速タイプのサーキットでの使用回転域 )
4000 prm 〜 7500 rpm の平均トルク : 45.50 Kg/m
( 高速タイプのサーキットでの使用回転域 )
各回転数ごとの馬力数値
RPM | 2000 | 2500 | 3000 | 3500 | 4000 | 4500 | 5000 | 5500 | 6000 | 6500 | 7000 | 7500 |
PS | 88 | 120 | 180 | 280 | 340 | 367 | 375 | 380 | 370 | 350 | 332 | 328 |
3000 prm 〜 6000 rpm の平均馬力 : 327.43 PS
( ミニサーキットなどでの使用回転域 )
3500 prm 〜 6500 rpm の平均馬力 : 351.71 PS
( 中速タイプのサーキットでの使用回転域 )
4000 prm 〜 7500 rpm の平均馬力 : 355.25 PS
( 高速タイプのサーキットでの使用回転域 )
各回転数でのトルクと馬力の数値を使って、全域 ( 2000 rpm 〜 7500 rpm ) の平均値と、 サーキット走行する時の使用回転域 ( 3種類の大きさのサーキットを想定 ) での平均値を出します。
なお、これはあくまでも普通の走行会や、スポーツ走行を想定した使用回転域です。
普通に日常使用する車両で、「 安全マージンを充分に入れた使用回転域 」 という想定です。
例えばミニサーキットでも 6000 rpm 以上回す場合もありますが、ここでは 「 頻繁に使う回転域 」という意味です。
■ 車両 : B ( 430馬力 )
最大トルク : 約 56Kg/m 最大馬力 : 約 430PS
大型 タービン搭載、 2.2リッター
剥き出しエアクリ、 社外マフラー、 社外メタキャタ、 F-con + フラッシュエディター、
大容量インジェクター & 大容量燃料ポンプ など
これは、実データを参考にして作った仮想モデル。
実在する車両だと何かと問題になりそうなので (笑)、よくある感じに作ってみました。
2.2 リッターキットと 大型タービンを使ってセッティングすると、だいたいこんな感じでしょう。
実力のあるショップの有名なチューナーさんのセッティングならば、もっとトルクもパワーも出す事が可能だと思いますが、ここであまり大パワーにすると比較圏外になりそうですから、最大パワーは A と比べてプラス 50 馬力に設定。
チューニングの方向性は、なんと言っても大型タービンを使用して 400 馬力越えのパワーの追求。
3000 rpm を超えたあたりから盛り上がり始めるトルクとパワー。
本領発揮する 4500 rpm あたりからのパワーの出方は、大型タービンならではの高回転仕様です。
各回転数ごとのトルク数値
RPM | 2000 | 2500 | 3000 | 3500 | 4000 | 4500 | 5000 | 5500 | 6000 | 6500 | 7000 | 7500 |
Kg/m | 24 | 22 | 25 | 32 | 42 | 56 | 52 | 48 | 46 | 42 | 38 | 36 |
3000 prm 〜 6000 rpm の平均トルク : 43.00 Kg/m
( ミニサーキットなどでの使用回転域 )
3500 prm 〜 6500 rpm の平均トルク : 45.43 Kg/m
( 中速タイプのサーキットでの使用回転域 )
4000 prm 〜 7500 rpm の平均トルク : 45.00 Kg/m
( 高速タイプのサーキットでの使用回転域 )
各回転数ごとの馬力数値
RPM | 2000 | 2500 | 3000 | 3500 | 4000 | 4500 | 5000 | 5500 | 6000 | 6500 | 7000 | 7500 |
PS | 65 | 75 | 100 | 150 | 200 | 250 | 340 | 400 | 420 | 430 | 410 | 380 |
3000 prm 〜 6000 rpm の平均馬力 : 265.71 PS
( ミニサーキットなどでの使用回転域 )
3500 prm 〜 6500 rpm の平均馬力 : 312.86 PS
( 中速タイプのサーキットでの使用回転域 )
4000 prm 〜 7500 rpm の平均馬力 : 353.75 PS
( 高速タイプのサーキットでの使用回転域 )
■ 上記 2台を比較する
A 最大トルク : 約 61Kg/m 最大馬力 : 約 380PS ダブルチャージャーキット車両
B 最大トルク : 約 56Kg/m 最大馬力 : 約 430PS 大型タービンを装着した車両
以前より ダブルチャージャーキットの記事 で比較対象として出て来る 「 大型タービン装着車 」 ですが、 今回はより細かい部分までしっかりと比較してみます。
A がスーパーチャージャーでドーピングしている分、B としては A の下からのトルク には太刀打ちできないものの、 パワーのグラフのほうは、しっかりと 「 低 ・ 中回転仕様 VS 高回転仕様 」 の構図になってます。
これらのグラフから各回転数でのトルクと馬力の数値を使って、全域 ( 2000 rpm 〜 7500 rpm ) の平均値と、 サーキット走行する時の使用回転域 ( 3種類の大きさのサーキットを想定 ) での平均値を出します。
3000 prm 〜 6000 rpm : ミニサーキットなどでの使用回転域
3500 prm 〜 6500 rpm : 中速タイプのサーキットでの使用回転域
4000 prm 〜 7500 rpm : 高速タイプのサーキットでの使用回転域
※ 例えばミニサーキットでも 6000 rpm 以上回す場合もありますが、ここでは 「 頻繁に使う回転域 」という意味です。
各回転数ごとのトルク数値
RPM | 2000 | 2500 | 3000 | 3500 | 4000 | 4500 | 5000 | 5500 | 6000 | 6500 | 7000 | 7500 |
A | 32 | 32 | 43 | 56 | 61 | 58 | 53 | 49 | 44 | 38 | 34 | 32 |
B | 24 | 22 | 25 | 32 | 42 | 56 | 52 | 48 | 46 | 42 | 38 | 36 |
2000 rpm 〜 7500 rpm 全域での平均トルク値 |
3000 prm 〜 6000 rpm ミニサーキットなどでの 平均トルク値 |
3500 prm 〜 6500 rpm 中速タイプのサーキットの 平均トルク値 |
4000 prm 〜 7500 rpm 高速タイプのサーキットの 平均トルク値 |
|
A | 44.33 Kg/m | 52.00 Kg/m | 51.29 Kg/m | 46.13 Kg/m |
B | 38.58 Kg/m | 43.00 Kg/m | 45.43 Kg/m | 45.00 Kg/m |
各回転数ごとの馬力数値
RPM | 2000 | 2500 | 3000 | 3500 | 4000 | 4500 | 5000 | 5500 | 6000 | 6500 | 7000 | 7500 |
A | 88 | 120 | 180 | 280 | 340 | 367 | 375 | 380 | 370 | 350 | 332 | 328 |
B | 65 | 75 | 100 | 150 | 200 | 250 | 340 | 400 | 420 | 430 | 410 | 380 |
2000 rpm 〜 7500 rpm 全域での平均馬力値 |
3000 prm 〜 6000 rpm ミニサーキットなどでの 平均馬力値 |
3500 prm 〜 6500 rpm 中速タイプのサーキットの 平均馬力値 |
4000 prm 〜 7500 rpm 高速タイプのサーキットの 平均馬力値 |
|
A | 292.50 PS | 327.43 PS | 351.71 PS | 355.25 PS |
B | 268.33 PS | 265.71 PS | 312.86 PS | 353.75 PS |
トルクや馬力は、そのまま速さと直結しますから、数値の大きいほうがその領域で速い事になります。
トルクはもともと A の車両のほうが数値が高いので B のほうが負けているのは仕方ないとしても、 馬力は B のほうがもっと勝っているハズ、、、
…と考えていた人が多いのではないでしょうか。
B は、プラス 50 PS で 最大 430 PS もあるのに各回転域で平均値にして比べてみると A よりも低い。
ミニサーキット、中速タイプのサーキットでの使用領域では A のほうがトルク・馬力の両方で圧勝。
高速サーキットでは、ほとんど接戦ですが A がほんの少しだけ勝っている状態です。
もっと上の回転域 ( 例えば 5000 rpm 〜 7500 rpm 以上 ) を使って走るような超高速サーキットでない限り、 数値的に見て A は B に速さで負けることはまずありません。
仮に、A と B の 2台がタイヤや車重等が同じと想定し、サーキットでテール・トゥー・ノーズのバトルをしている時、 当然同じ速度でコーナーを回り、2台は同じエンジン回転数になります。
低・中速コーナーからの立ち上がりで 3500 rpm 〜 6500 rpm 間の加速をすると、先行車両が A だった場合は B は離されてしまい、ストレートでまた追いつく感じでしょうか。
B が先行車両だった場合は、コーナーの立ち上がりで A に抜かれてしまうでしょう。
4500 〜 5000 rpm ぐらいの回転数から立ち上がるコーナーならば、その時点でトルク・馬力の勝る A が先に出て 立ち上がりの後半か次のコーナーの手前で、高回転からトルク・パワーの出る B に追いつかれると思います。
さらにもっと上の回転数で走れる高速コーナーならば B のほうが断然優位になり、A を抜けると思いますが高速コーナーばかり続く事はまず無いので、低・中速コーナーでまた並ぶという熱い展開になりそうです (笑)
もちろん、ゼロヨンや最高速のような直線だけの勝負なら、単純に B のほうが有利でしょう。
また、2台が必ずしも同じエンジン回転域で勝負する必要はありませんから、互いに有利な回転域で戦えば良いのですが、チューニングの方向性の違いを理解するには、こういった比べ方がとても判りやすくて良いと思います。
そのほかの比較要素としては、出力特性も重要です。 例えば 3500 rpm 〜 6500 rpm の領域でみた場合、 A のほうは、3500 rpm で 280 馬力、最大は 380 馬力なので、この使用回転域での最大差は 100 馬力。
( 380 - 280 = 100 馬力 )
それに対し B のほうは、3500rpm で 150 馬力、最大は 430 馬力も出るため、その差が 280 馬力もあります。
( 430 - 150 = 280 馬力 )
B のように使用回転域内で馬力の差が大きいと、それだけ扱いづらく精神的疲労も大きいでしょう。
ただし、直線が長ければパワーを使って引き離す、または追いつけるという優位性は B のほうにあります。
それと、車両に与える負荷も考えるべきでしょう。
パワーが大きければ、それだけ諸刃の剣で車体やエンジン・タイヤの消耗も激しく発生熱量もハンパないです。
同じ条件で走行開始した場合、先に限界が来るのは B のほうになります。
上記の最大差の数値から単純に比較すると B のほうが 3倍近く運転がしづらいのに、その分の恩恵が少ない と言いますか、耐久面ではデメリットも大きいと言えるでしょう。
また、上記のようなサーキットではなく、日常の使用の範囲 ( 4000 rpm 以下 ) で 2台を比較した場合、 B は 4000 rpm で 42 Kg/m & 200 PS なので、まだまだ全然大型タービンがパワーを出せていない状態です。
B は完全に高回転仕様のため、この回転域は得意ではありません。
それに対して A は 4000 rpm でカタログスペックをはるかに上回る 61 Kg/m & 340 PS も出ますので、 踏めばいつでも低回転からの強烈な加速が楽しめる 低 〜 中回転仕様です。
これは ターボ + スーパーチャージャー の恩恵ですね。
同じ EJ20 エンジンの 2.2 リッター でありながら、求める方向性で全くの別モノになるワケです。
■ まとめ
一見、B のほうはパワー・トルク共に申し分なく、3000 〜 5500 rpm で一気に吹け上がり、高回転域での パワー・トルクの曲線も、とても良いように思います。
一般的には、「 これぞ大型タービンでの高回転仕様 」 といったパワーグラフでしょう。
チューニングカーらしく 「 大きいタービンを載せたい 」、「 目指せ! 400 馬力オーバー 」 という目的なら B の方法で間違いありません。
しかし、実戦レベルという 「 方向性 」 で考えた場合、その答えは 「 B の方法で間違いありません 」 とは 言い切れなくなって来ます。
B のほうは常に 5500 rpm 以上に回しておけば A の最大馬力 380PS 以上になるので圧勝しそうに思えますが 現実的 かつ、エンジン等の耐久度的に考えても常に 5500 rpm 以上に回しておくのは無理ですからね。
どうしたって減速する区間はありますし、高回転をキープしたままではエンジンやタイヤなどの消耗が激し過ぎます。
まして、高回転でエンジンを唸らせておくよりも、ギアをひとつ上げて 「 伸び 」 を使ったほうが良い場合もあるため、 そういった 「 走りの組み立て 」 から考えても常に高回転域キープは現実的ではないでしょう。
本題である 「 速くするには、どうしたら良いか? 」 という目的・方向性で考えるためには、様々な角度から 走らせるステージを想定し、そのステージでどのように走らせるかを出来るだけ深く考える必要があります。
今回のように、比較車両を想定して考えてみると良いでしょう。
( 出来るだけ手強いライバル車両との比較を想定するのがお薦め )
チューニングというと、どうしてもパワーばかりを追い求める傾向が強く、プロの人でさえ、そうなりがちですが、 本当に大事なのは、ただパワーを出すのではなくて、「 どこで、どうパワーを出すか 」 という事です。
有効的にパワーを引き出すための 「 バランス配分 」 も考えるのが重要で、それが最善の答えとなることでしょう。